第38話

国一番の美女であるエラと殺戮兵器イーサンのデートは、周囲に動揺をまき散らした。



相変わらずの無表情で人を殺しそうな威圧的な雰囲気の彼と、それを物ともせず、少女のようにはしゃぐ美女は、下町のカフェで、貴族街の店で、時には王立図書館で多々目撃された。



あの殺戮兵器と付き合う女などこの世に存在しないと思われているせいか、初めは家同士の無理矢理の結婚であるとか、王命のせいだというこじつけで同情されていたエラであったが、2人のあまりにも仲睦まじく甘々な様子に、次第に本当に好き合っているのでは?と囁かれ始めていた。



それでも、イーサンとエラの関係が長く続くとは思えない者は多く、いまだにエラの元にはあらゆる貴族令息からの縁談の申し込みが後を絶たず、王家からの誘惑も多い。しかしエラはそれらの話に見向きもせず、毎日が幸せそうだと、ベラやスカイラーは内心喜んでいた。



イーサンがエラの美貌に気絶したり、顔を真っ赤にして固まることも多い中、幸せの絶頂にいた2人の前に1人の女が現れる。



「あら、あなたエラではなくって?久しぶりね。最後に会ったのは王太子殿下主催の夜会かしら。」


「…ミッター辺境伯令嬢。ええ、お久しぶりですわね。」



ゾフィア・ミッター。ミッター辺境伯の一人娘である。彼女は王太子の婚約者候補の1人であり、その中でもダントツ、エラを敵視していることで有名だ。深緑のドレスを好んで着る彼女は、深緑の辺境伯姫しんりょくのへんきょうはくきと呼ばれ、その容姿と聡明さにエラを除けばであるが、最も未来の王妃に近いと言われている。しかし優秀と同時にプライドが高く性格もキツイため、そんな彼女が自分の存在がかすむほどの人気を誇るエラをライバル視するのは仕方のないことなのかもしれない。




今日も深緑に身を包んだ彼女は下町の雰囲気に似つかわしくなく、とても目立っていた。まったく高貴な雰囲気が隠せていないが、一応平民の格好をして忍べていないお忍びデートをするエラとはずいぶんな装いの差である。

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