ライバル登場

第37話

「イーサン様?」



エラの呼びかけに、イーサンはハッと気がついた。ここは下町のカフェ。今日は平民に人気というこの店に、エラを伴い来ていたのだ。



視線を落とせば自分の傷だらけの手はエラの傷一つない、真っ白で小さな手を握っている。そして自分が”拘束”している手ではない方でフォークを握っているエラは、浮かしていた尻を今椅子に落ち着かせたところだった。



キョトンとしたエラの顔を認識した途端、心臓がうるさく高鳴る。死ぬ。死ぬかもしれない。美しすぎるエラを見ただけで自分の心臓は壊れてしまうかもしれない。そう思った時、口内に広がる甘さに思わずイーサンの顔が歪む。



「美味しくないですか?」



困ったようにそう問いかけるエラに、ようやく自分が何をしていたか思い出したイーサン。



「いや、美味い。」



イーサンは本当は、エラが作ってくれる甘さ控えめのクッキーの方が美味かったが、エラを悲しませたくなくてそう言っていた。



彼はいわゆる、あーん、をエラにしてもらった。その時あまりの興奮具合に脳がショートして記憶が抜け落ちていたようだ。悔しい。せっかくのあーん、をまったく覚えていない。彼は心底悔しがる。




「ふふっ、口にクリームがついていますよ?」



「っっ。」



ビックリしている間に口元のクリームがすくわれ、それはエラの指先から彼女の唇へと吸い込まれた。そこでまた、彼の記憶が飛んだ。

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