第35話
そんな彼がようやく、エラから自分が好かれていることを理解した。それは彼にとって、外見で自分を判断し一方的に嫌ってくる令嬢たちよりも衝撃の存在だったようだ。
彼がエラの気持ちを理解した途端、プシュウ、そんな擬音が聞こえるかと思うほど、イーサンは顔を赤くして固まった。そんな彼を心配して近づいたエラに怯えさえ見せ、手を握られた途端今にも倒れそうなほど身を強張らせた。
『そっ、なっ、おっ、は。』
よく分からない擬音を吐き出し、それをニコニコしながら見てくるエラと目が合っては血走った目を滑らせて勢いよく逸らす。
そんな2人の光景を見て、シャルズは怒りと嫉妬に燃えた目を向け、王やグランヴィル公爵は白目で放心していた。ただベラとスカイラーだけがその様子を面白そうに見ており、顔は無表情ながらも上機嫌に目を細めていた。
結論から言うと、イーサンは周りが作り上げたただの純粋男だったのである。目が合うだけで嫌われ怯えられる彼は、女性と付き合ったことがない。彼も人並みに欲がある。いや、兵士という職業柄、どちらかと言えば欲は強い方だろう。戦場では、アドレナリン全開で死地へ赴く兵士たちのために、国が派遣した娼婦たちが相手をする。適度に性欲を発散させることで、凌辱などのあるまじき行為をさせないためである。
サザムンド王国は戦場における略奪などの行為を容認していない。できれば戦争すらしたくないと公言するほどこの国の王は温厚な気質であるのだ。それでも、領地を侵略しようと攻め込んでくる国はある。それを防ぐために設けられている騎士団ではあるが、戦争を好む国の騎士団と並び立っても遜色ないほど強かった。
その頂点にいるのがイーサン・グレイ。しかし、彼は初めて娼婦に対峙した時、戦争と同じく、戦わずして勝利してしまった。
あらゆる強面の兵士たちを相手にしてきた歴戦の娼婦が、泣き出し、天幕から抜け出したのだ。
結局、イーサンを娼婦ですら相手をしてくれなかった。結果、人付き合いも苦手な、それ以上に女性の免疫がない、純粋人間ができあがったのである。
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