第34話

「お待たせいたしました。イーサン様。」


「…いや、今来たばかりだ。」



耳を赤くするイーサンは、約束の時間より1時間も早く来ていたのをエラは知っていた。真新しい馬車はわざわざ買ったのであろう。イーサンが普段登城する時に乗っている愛馬ではデートに不向きだからだ。


普段馬車がいる時は伯爵家の馬車を借りていると調べがついているのだから、彼が自分のためにわざわざ馬車を購入してくれたことは一目瞭然である。



差し出された手にそっと手を載せると、面白いくらいにイーサンの全身が強張った。相変わらずの無表情であるが耳が赤く身体が小刻みに震える様はエラにとって可愛くて仕方がない彼のチャームポイントだ。



あれから、イーサンはエラが自らの意志で縁談を申し込んだと聞いて目に見えるほどのうろたえを見せた。



どうやら女性との交際経験がなくかつ自分を当たり前に卑下している彼にとって、エラからの好意は本人に聞くまでは真実とは認められていないらしかった。不器用な彼はとりあえずあの場に行ってみて、エラにストレートに気持ちを聞いた。



その結果、回りくどい貴族言葉も使わずのストレートなエラの返答に、ようやく自分がエラに好かれているらしいことを理解したらしい。




はっきりと聞くまでは聞き流す。彼独特の考え方は、これまで女性に怖がられ、同性や子供にまで怖がられ続けていた彼の一種の自己防衛に近いのだろう。本来なら、貴族言葉で遠回しに言われたり、女性を嫌がられている”雰囲気”で察っしてやるしか方法がなかっため、エラのようにはっきりと気持ちを伝えてくる女性は彼の理解の範疇を超えていた。

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