第33話

引退はしたがイーサンの補佐に就いた元騎士団長の指導の元、イーサンは顔に傷を負いながらも勢い付いていたヨルガムンド王国兵たちに立ち向かった。自国の民を残虐な方法で弑し略奪の限りを尽くした彼らをイーサンは軽蔑し、同時に憎んだ。彼は冷淡で人を人とも思っていない人物であると噂されてはいたが、その実は違う。



愛する祖国の大事な民を殺したにっくきヨルガムンドをまっすぐに見据えた彼は、容赦なく彼らを切り刻み、地獄へ叩きつけた。




苛烈ともいわれるその戦い方は相手が降伏しようが背を向け敗走しようがお構いなしに地に沈め、蹂躙していった。顔に刻まれた大きな傷をものともせず突き進み、敵を切り伏せるさまは自国の兵士でも恐れ、息を呑んだという。



彼の進んだ道には敵兵の死体が散らばり、赤黒い血で作られた道には彼の足跡のみがついていたという。



地獄のような道を突き進む彼の表情はまさに無そのものであり、人を殺したというのに感情も表さないその姿から、【殺戮兵器】というあだ名がつけられた。



潰された村出身の兵士やその家族からは感謝されたが、それは少数であり、大きな声にはならない。



元騎士団長が若きイーサンの才能を開花させるためにした英断は結果、英雄と悪魔を同時に産んでしまった。



大きな傷跡ができたイーサンは、国の英雄となり騎士爵を賜り、分家の栄誉を賜ったとしても女性たちの関心を集めることはできず、彼は独身のまま、家族すら寄せ付けず今に至っている。



そんな彼の孤独な人生を照らしたのは、国の誰もが望む大きな光であった。

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