第32話

サザムンド王国は内紛もなく、周囲の国とは強固な同盟を結んでいる争いのない国である。しかし、イーサンが20歳の時、隣に位置するヨルガムンド王国が協定を破って攻め入ってきた。突然の強襲に、関所だけでなく辺境を守っていた領主の城まで落とされ、勢いそのままにヨルガムンドの兵が王都を目指す。先頭には討ち取られた領主とその妻、8歳と5歳の子供たちの首が飾られていた。


その残酷な光景に近隣の村々は恐れおののき降伏し、平身低頭したという。



しかしヨルガムンド王国の兵たちは降伏したというのに近隣の村々を襲い、略奪の限りを尽くした。若い男は真っ先に殺され、子供は遊びのために貼り付けにされ鳥に目を食わせた。老人たちは穴に落とし飢えるのを待ち、女たちは凌辱されたという。人から人へ、ヨルガムンド王国の所業は喧伝され、サザムンド王国の民はヨルガムンド王国の兵の目に入らないよう、方々へ散り散りになって逃げた。



結果、王都までの道でヨルガムンド王国兵の歩みを止める者はおらず、あと2日で王都、という所まで進まれてしまっていた。その時だった。




イーサンはその頃、剣の才能を買われ当時の騎士団長の補佐を務めていた。当時の騎士団長は普段温厚な男で、イーサンの見た目だけでは判断できるはずもない、彼の内面も見てくれていた、数少ない人の一人だった。人の良い彼は剣の腕はあまり良くなかったものの、人をまとめることに非凡な才能を持っていた。その彼が何を思ったのか、ヨルガムンド王国の兵たちの侵攻を目前にして引退を申し出た。



『お前ならできる。』



人によっては責任放棄に見えるその行為は結果、イーサンの非凡な才能を開花させるきっかけとなった。



突然騎士団長となったイーサンは、彼の意志を尊重し国を守る騎士団のトップに立った。



内心は愕然とし動揺していたが、持ち前の”怖い容姿”が役に立った。堂々と自国の兵たちの前で指揮をするイーサンを彼らは恐れ、敬わざるを得なくなったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る