第27話

それに、イーサンがいくら優秀な男でも、身分の面から見てもエラの相手としてイーサンは物足りない。



イーサンはこれから地位を上げていくと予想できるほど優秀ではあるが現在騎士爵止まり。この国の王族を除いた最高位にいる公爵家の娘と結婚させるには身分差が甚だしいのだ。しかし、イーサンからの求婚ならまだしも、公爵家から望まれたとなれば少しだけ話が違ってくる。もしこれでイーサンが了承すれば彼らの婚約は結ばれたも同然となってしまうのだ。


それは、色々な不安要素を突破した中での実現困難な結果であるとしても、イーサンとエラの婚約が成ってしまえば王家は大きな魚を逃してしまうことになる。



だから王は、少々小ズルいとは思ったが、この場を自分が仕切り、色々と画策した。イーサンの噂を冗長させるために日ごろから敵対している近衛兵たちを使い、彼を煽るためシャルズ卿をここに配置した。シャルズは侯爵家の嫡男である。彼もエラを狙っているようだが、出世欲はあるので、決して王家に逆らったりしない。王子とエラの縁談を前に、皇族付きの護衛への出世をチラつかせれば惜しむだろうがあっさりと引き下がるだろう。もちろん、イーサンの恐ろしさにエラが逃げてくれればよいが、日ごろから彼女の肝の座っている様子を見てきている王は念のため、できる限りの邪魔をするつもりだった。



そして今は、イーサンに不敬とは承知だろうが、身分差を理由にお前から断ってもいいのだと彼に話す機会を与えた。恐らく、王の卑劣な所業に気付いているグランヴィル親子にも暗に訴えかけているのだ。



しかし、小さく頷いたイーサンは、思いがけないことを言った。



「グランヴィル公爵令嬢にお聞きしたい。」


「はい。」



頬を染め、目を伏せて頷いたエラを、イーサンは射殺さんほどの険しい目で見つめている。しかし次いで発せられた質問は、思ったよりも普通の質問だった。そんな険しい表情でする質問ではないのでは、と、笑顔の奥で王はツッコんだほど。

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