第26話

ベラが音もなく華麗な所作でお茶の用意を素早く済ませ元の位置へ戻った頃、かぐわしい香りの紅茶を一口飲みながら国王が口を開いた。



「さて、少々でしゃばりかと思ったのだがね。我が国の大事なグランヴィル公爵家の娘のエラ嬢の縁談となれば黙っていられなかったのだ。すまないね。」


「いいえ、陛下が気に病むことではございません。ご心配なさらず。」



淡々と答えたのはグランヴィル公爵だ。エラは父親の言葉に合わせ、会釈をするに留めている。



国王は小さく頷くと、イーサンへと視線を移した。国の英雄であるイーサン・グレイ。まだまだ若く気の利かないところがあるが、今までも、そしてこれからも、武力の面で国を支えるに足る男だ。



彼は普段から社交性があるとは言えない。それが上官であろうが、国王であろうが、彼は態度を変えたことがなく、常に無愛想である。



しかし今日はなぜか、口数がさらに少ないように感じる。それに、様子もなんだかおかしい。内心首を傾げながら、国王は口を開いた。



「イーサン卿、そなたはなにか言いたいことがあるかね?」



なんなら辞退してくれても構わないよ。そう続けはしなかったが国王は本心でそう思っていた。彼は別にイーサンが気に入らないわけではない。しかしエラ・グランヴィルという国の宝をどうしても王族の一員として迎えたいという打算が常にあった。彼女ほど優秀な女性が自分の息子を支え、国を支える立場になってくれればと何度思ったことか。だから今回の王子たちとの縁談は、王子がエラを選ぶのではなく、エラに選ばせることにしたのだ。



それだけエラの存在が欲しいのだと暗に伝えたつもりだった。まったく伝わらなかったが。

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