第25話

どこか一点を見つめ、一切の反応を示していない。


「あの、イーサン卿?」



エラが不思議そうに首を傾げ、彼に一歩歩み寄る。その時だった。



「失礼。遅れてしまったかな。」


「本当に。陛下のせいですよ。」


「ハハッ、良いではないか。ん?もしやもう帰るところか?」



この縁談が破談になることを信じて疑わない国王は、この場にいる全員が茶も飲まず立っている光景に、やはり破談になったのだと内心ほくそ笑みながら破顔した。心の中で中庭近くで待機させている王子たちに使いをやらなければと思いながら、慌てて笑顔をおさめ、神妙な顔をしてみせる。




「いいえ、まだ始まってもおりませんわ。」



しかしエラがすかさずそう言って扇子を開き、口元を隠した。彼女としては緩みきった自分の頬を隠したかったのだ。



この場にいる男性陣はみな、イーサンの怖さに顔を直視できないのだろうと思う。先程のエラの発言は即座になかったことにした。そんなことは万にひとつもないのだが。



「とにかく、座ろう。お茶を。」


「かしこまりました。」



公爵の命令にベラが天幕の外へ姿を消した。彼女は今日も通常運転である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る