第24話

まさか王とて、国の英雄がそんな狂暴な人間だとは思っていない。しかし、エラとイーサンという不可解な組み合わせを破談に追い込みたいあまり、彼は冷静な判断を欠いていた。そしてシャルズもまた、冷静な判断を無くしている一人である。



と言っても、ここで的確に現実を見れている者はいるのだろうか?恐らくそれはいないだろう。



縁談を申し込まれたイーサンでさえ、現実を信じられていないのだから。スカイラーはいつものエラを知っているので別として。スカイラーの存在など瑣末なものすぎてエラ以外誰も意見を聞くことなどないのだからはなから頭数に入れるだけ無駄である。



そんな彼らの考えを知らず、この国一の美女は頬を染める。



「まだお父様が来られてからと思っておりましたがわたくしがイーサン卿をお慕いしているのですわ。戦神に愛されたかのような鍛え上げられた体躯、厚い胸板、最高の胸板。そしてこの凛々しい瞳も、私だけを見てほしい。大きな傷跡は指先でなぞりたいほど愛おしく感じておりますの。ああ、私ったらはしたないわ。侍女のベラに暴走だけはするなと強く言われていましたのよ?だけれど…これくらいなら世の恋人たちは語り合っているものですわよね?」



二度紡がれた【胸板】。情熱的な求愛の言葉に、シャルズは自分が言われたわけでもないのに顔を真っ赤にした。背後に控える彼の補佐である者も同様。鼻を押さえ、出ているわけでもない鼻血を止める。スカイラーだけはすぐさま危険を察知して、彼女を直視していなかったので無事である。



エラの愛くるしい唇から紡がれた言葉は甘く、男ならば誰もが女のように頬を染めてしまうほどの衝撃を与えた。


しかし、彼女のエメラルドの瞳が一心に向いている先にいる彼は、というと…。

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