第23話

「なにをおっしゃりたいのか存じませんが、いささか失礼ではございませんこと?」


「は?」



エラの穏やかな言葉に似合わず、シャルズは低い声を出した。その目は一瞬剣呑に細められたが、エラの笑顔を前にし、コホンとわざとらしく咳払いをして気を取り直す。



「え、エラ嬢。気のせいかもしれないのだが、今、なんと?」


「あら、聞こえませんでしたの?わたくしとシャルズ卿は夜会でしかお会いしたことがございませんのに少々馴れ馴れし、いえ、親し気に話しかけていただけるものですから、びっくりしてしまって。それに、あまり親しくはない”顔見知りでもない”方に名前を呼ばれてしまうと、困ってしまいますわ。」



いつもの美しい笑顔で暴言とも呼べる言葉を吐くエラに、シャルズは目を見開き、固まっていることしかできない。



「それに。」


「へ?」



そして次の瞬間、一切表情を崩さない鉄壁の笑顔のエラを前にして、彼は反論の余地もなく彼女の次いだ言葉を受け取るしかなかった。




「この縁談はわたくしがイーサン卿をお慕いしているので、お父様が縁談を申し込んでくださいましたの。この場が国王陛下預かりになったのも、お父様がまだ政務から戻られないのもひとえに、陛下の”親心”のせいですわ。」



言外に、エラは国王が【敵】であると言ったのだ。親心のせいで王子たちの誰かとエラの縁談をまだ諦めていないし、親心のためにこの場を王預かりとした。恐らく、王でさえもエラとイーサンの縁談が上手くいくとは思っていない。それだけこの2人の間には大きな障害があると考えている。



王は賭けたのだ。イーサンの顔の怖さに、噂の酷さに。王預かりのこの天幕で、イーサンの顔を見てエラが泣いたり、彼の失態でエラとの縁談が破談となれば、すぐさま王子たちを投入し、傷ついたエラの心に寄り添わせようとした。



それそろ時間であるのに父親のグランヴィル公爵がこの場に到着していないのも、イーサンをイラつかせる策だ。もし万が一、イーサンが怒りを示せば、近衛兵たちが排除する手はずとなっていた。それを予測してのこの厳重な警備。国の英雄の【殺戮兵器】に対して失礼極まりない。

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