第21話
はたから見れば、強面のイーサンが愛想もなにもない仏頂面でエラをジッと見つめているさまはまるで、肉食獣に睨まれた草食獣のように見える。それになぜかエラの頬が赤くなっていることを除けば、彼女は小さく震えそのエメラルド色の美しい目を潤ませ見ていることしかできていないようだ。草食獣は、肉食獣に捕食されると悟った時、身体が硬直し動けなくなってしまう。
それは死への恐怖からか本能的に諦めてしまうのかは分からないが、どう見ても今のエラの様子は草食獣のそれだろう。
近衛兵と、もはや取り繕うのをやめて堂々と廊下から見物している貴族たちはエラに同情した。
しかし、内心は別であろう。エラは少なくとも、イーサンに対して恐怖の類の感情を一切感じていない。こん棒のような太い腕、厚い胸板、均整の取れた大きな肢体は、エラの心を揺さぶる。それに、真っ黒な漆黒の目は不機嫌そうに細められ、殺意すら感じる鋭いそれはまっすぐに自分を射抜いているのだ。
(なんて、神々しいの。)
それをなぜかエラは好意的に取ってしまった。吸い込まれそうな漆黒の瞳。撫でつけられた黒髪に乱れはなく、彼の頬に走る大きな傷跡など指先でじっくりと触ってみたいと思うほど。
不機嫌そうに見えるその顔も好みであるし、なにより、声が、良い。耳奥へと響くバリトンボイスは、この場で神へ叫びたくなるほど素敵だ。
「…ここは人が多い。天幕へ。」
「…はい。」
差し出されたごつごつとした手は触れるとピクリと小さく動いた。見上げれば愛想もなにもない顔が見下ろしていて、先ほど感じた震えに似たそれの意味を一切感じさせない表情に疑問を抱くこともなく、エラは誘われるまま天幕へと歩みを進める。その2人にベラとスカイラーが静かに付き従った。
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