第20話

シン…という音が聞こえたかと思うほどの静寂。感嘆で漏れたため息は飲み込まれ、騎士たちのうぬぼれ発言は鳴りを潜める。同時に何人かが唾を飲み込む音が鮮明に聞こえ、場が一気に緊張に走ったのが見えた。



「すまない、遅れただろうか。」



その空気をまったく気にしていない様子のイーサンの問いかけに、エマは恥ずかしそうに頬に手を当て、頬を染める。



「いえ、時間通りですわ。グレイ卿。」



騎士への敬称をつけ、エマは恥ずかしそうに家名を呼んだ。さすがに初対面で「イーサン様。」と呼ぶのは馴れ馴れしいと、ベラにアドバイスをされていたからだ。しかし、とエマは思う。あれから何度もイーサンに対する”調査”を行ったが、エマの一番のお気に入りの服装はイーサンの"普段着"だった。彼はほとんどを騎士団で過ごすので、もちろん彼の普段着はこの騎士服である。



午後2時というお茶を楽しむのに適した時間に設定されたこの顔合わせの前に普通に勤務してきたのであろう。そもそも着替えるつもりもないだろうとあたりを付けたのが正解だった。



(ああ、直視してしまう。最高にかっこいいわ。)



普通の乙女なら恥じらって直視”できない”ものであるのに、そこはやはりエマは特殊らしく、ガン見である。



「なにか?」


「いえっ。」



訝し気なイーサンの問いかけに慌てて取り繕うも、イーサンの強調された胸筋から目が離せないエマ。



(ああ、あの厚いお胸に顔を埋めたい。)



天使のような見た目に反して、エマは内心とんでもなく痴女に近いことを考えていた。

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