第19話
その日は、王宮主催の夜会でもあるかのように、多くの貴族が列を成して王宮入りした。
普段の開放的なそれとは違い、中庭は他国の王族が来た時に使うような巨大な天幕が組まれ、中の様子は伺いしれない。しかし、一目見ようと押しかけている貴族たちが偶然を装ってひたすら中庭そばの廊下を行ったり来たりしていた。
それを、天幕近くにいる護衛たちは呆れたように見ている。
王預かりであるせいか中庭には近衛兵が30人ほど配置されていた。青い服である騎士団とは違い近衛は白銀と赤を基調にした優雅なデザインの騎士服である。基本的に貴族の子息で形成されており、平民出身はいない。完全身分制であるが、よくある馬鹿貴族の能無しは王自らの選別によりいない。そんな彼らが自分より下の身分であるイーサンの護衛となるのは内心面白くはないが、この国一の美女であるグランヴィル公爵令嬢とお近づきになれるのなら悪くはないと、自らを納得させていた。
だってこれは政略結婚。王と父親のゴリ押しで無理矢理殺戮兵器と結婚させられそうになっている哀れなエマ嬢に自分を覚えてもらい、あわよくばイーサンの立場にとって変わることも不可能ではないのだ。地位も身分も騎士としての腕もある自分たちがイーサンより下なわけはなく、エマ嬢はきっと自分を気に入ってくれる。あくまでライバルは他の29人の同僚たちであり、イーサンではない。彼らは本気でそう思っていたのである。
彼らの確信は、エマが侍女のベラと護衛のスカイラーを連れ中庭に現れて一瞬、忘れられることになる。なんせ今日のエマはシンプルな水色のドレスに包まれ、中庭に差し込む光を浴びてキラキラと光って見えたから。
「俺の、瞳の色だ。」
どこかの馬鹿がそう口走った。確実に勘違いであるがそう思わせてしまうほど今日のエマは期待と甘さを胸に、見せる美しい笑顔は破壊力抜群であった。廊下を歩く貴族たちの視線もこの場の護衛の兵士も、登場したエマにくぎ付けとなる。しかし、それも長くは続かない。その場の高揚した雰囲気を消し飛ばすように、いつもの騎士団の制服を着たイーサンが現れたからだ。
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