どちらが肉食?

第18話

ある日を境に、サザムンド王国全体に動揺が走った。


それはこの国の中枢を預かる高位貴族であるグランヴィル公爵家の娘エラと【殺戮兵器】の異名を持つイーサン・グレイ騎士爵との縁談の噂が流れたからである。



イーサン・グレイ卿は確かに国の英雄であるが、その残虐性と彼自身の見た目から判断され、王よりも恐れられている存在。そんな畏怖すべき象徴と国一番の美女の婚約話は、国中の年頃の令息たちを絶望のどん底に陥れただろう。



それも、イーサンの実家は伯爵家であるが、彼が騎士爵を賜り分家している。例え住む場所が一緒で彼に関することはいまだに父親の管理下にあるとしても、身分的にはギリギリ貴族・・・・・・の格下である。



騎士爵は、継承権を持たないいわゆる準貴族に位置する。そんなイーサンが王族を除けば国のトップに君臨する高位貴族である公爵家の娘と婚姻を結ぶなど、普通ならばあり得ないのだ。



だから人々は噂した。



『殺戮兵器が陛下に戦場での功績を盾に無理矢理エマ嬢を望んだ。』


『もしやもう彼女は殺戮兵器に穢されており、泣く泣くではないのか。』


『公爵と陛下の間で密約が済んでいて、殺戮兵器というどの国に寝返るかも分からない危険な男を国内に縛るための政略結婚では?』



誰もがイーサンとエマの婚約を祝福せず、絶対になにか裏があるはずだと悪しざまに囁きあった。



どこから漏れたのか、イーサンとエマが初めて顔を合わせる日取りと場所まで判明しており、少しでも見物しようと伺いの手紙が王宮の各方面へ届けられた。それはなぜか。イーサンとエマの婚約について、なぜか王預かりとなり、特例として2人の顔合わせは王宮の中庭を使った大々的なものとなることが決まっていたからである。

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