国一番の美女からの求婚

第15話

イーサン・グレイは騎士である。グレイ家の長男であり、下に弟が2人と妹が1人いる。別に彼は、両親に虐待されて育ったわけではない。両親はとても優しく、常にニコニコしていて、弟たちと分け隔てなくのびのびと育ててくれた。だから、噂である虐待されたために性格が歪み、今の残虐性を持った人格となった、というのは嘘である。



イーサンはグレイ家を継がない。彼は騎士を自分の天職だと思っている。


父は残念がったが、イーサンには商才もなければ、国では珍しいリンゴのワインを作るのに欠かせないリンゴへの愛もない。愛想もなければやる気もない。頭は良いから書類仕事だけはできるが、グレイ伯爵領を統治するにはそれだけでは不可能だ。社交もできず目が合うだけで相手を失神させてしまうのは、領主としては致命的。それに本人も騎士を辞めるつもりもないのならと、5歳離れた次男に跡を継がせようと話は落着した。



家が伯爵家のイーサンでは、それなりに動かなければこれ以上の地位向上は見込めないだろう。イーサンはその腕前だけで騎士団長という名誉を賜っているが、上を目指すのならば近衛騎士団長であるとか、王族個人の護衛であるとか、騎士としての高みはまだまだあるというのに。



しかしながら、それらの地位に就くにはそれなりの行動を起こさなければならない。言ってみれば社交性があれば、高みを目指せるのだ。王族も人間。ブスッとひたすら護衛だけに心血を注いでいる者よりも、愛想がよく、話し相手もでき、それでいてきちんと護衛をしてくれる者を重宝するのは当たり前だろう。



それに、大国であるこの国の近衛騎士団以上の地位に就ければ毎度息子が戦場に駆り出されるたび、訃報が届きはしないかと戦々恐々とせずに済むのだ。



しかしイーサン・グレイには致命的に足りないものがある。それは社交性である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る