第11話
牛のような体躯に、丸太のような腕、鍛え上げられたごつごつとした身体は、薄茶のシャツに黒いショースという軽装に申し訳ない程度に包まれている。彼の開かれたシャツの間から覗く傷の数々は、彼が歴戦の猛者であることを物語る。顔は整っているが、部下に向ける眼光はまるで親の仇へ向けるかのように鋭く、なにより右頬に縦に刻まれている大きな傷が、その存在の恐ろしさを増長させている。
真っ黒な髪は短く切りそろえられ、髪色よりも深まった漆黒の瞳はジッと正面を見据えている。武骨な手で構えられている剣は微動だにしておらず、対する者以外の甲冑を着込んでいる部下達の剣先は恐ろしさからかカタカタと小刻みに揺れていた。
重苦しいオーラに包まれたその場は誰もが固唾をのんで2人を見ており、一応の対戦相手である甲冑の彼が哀れに思えるほど、2人の実力差は目に見えていた。
「来い。」
不意に、恐ろしい男が低い声でそう言った。声まで怖いのだなとベラは身震いした。あの男を前にすれば、それが例え熊でも叩き潰されるに違いない。それほど、男の放つオーラは戦場とはほど遠いこの王城の中で異質なものだった。
「は、ハー!」
意を決して、甲冑の男が切りかかる。アッと思った次の瞬間には、甲冑の男はなぜか、地に伏していた。そしてそんな彼に剣先を向けている男は一言。
「…精進せよ。」
「ハヒッ!もうしわけございません!」
そう言うと、地に頭をつけ謝る甲冑男に背を向け、その場を後にする。男がいなくなった会場は、まるでタガが外れたかのように雰囲気が柔らかいものとなり、その場にいる誰もが安堵の表情を浮かべていた。
不意に、彼らの会話が流れ込んでくる。
「団長って今日非番じゃなかったのかよ?ビビったー。」
「ほんとだよな。突然やってきていい迷惑だぜ。」
「馬鹿っ。聞こえたらボコボコにされるぞ!」
「大丈夫だって。こんな日常茶飯事じゃん。いちいち怒ったりしねーよ。なんせあの人は。」
【殺戮兵器】なんだから。
心ないあだ名を聞いて、ベラはようやく合点がいった。彼の名前はイーサン・グレイ。この国の騎士団の団長であり、【殺戮兵器】と呼ばれるほどの戦闘狂だと言われている。
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