第10話

『色々調べてからにするが、とにかく大事な娘を不誠実な男の元へは嫁がせるつもりはない。なんとかしておく。』




そう言ってものすごく疲れた顔をした父親と別れ、エラはベラとスカイラーを伴い、王城の廊下を歩く。彼女が歩けば女も男も必ず振り返り、ある者はとろけるようなまなざしを向け、ある者は嫉妬に染まった目で睨みつける。時折混じる下卑た欲情の籠るまなざしにスカイラーが睨みを利かせ、悪意ある視線をベラが遮った。



公爵との会話には驚いたが、ここへ来る前の憂いを帯びた表情とは違いすがすがしさを感じるエラの今の表情に、ベラもスカイラーもホッと安堵する。間違いなくこの国一番と言われる公爵家の娘であるエラ。その肩書に負けることのない才を持ち合わせ、誰よりも美しい彼女の隣に立つ資格のある男はそういないだろう。大事な主人である。彼女だけを愛し、誠実であってほしい。なによりエラにはいつも笑っていて欲しい。2人はそう願わずにはいられない。



「あら。」



ふと、エラがなにかに興味を持った。彼女の視線の先には、騎士団の面々。どうやら歩いている内、城の端にある騎士団の修練場まで来てしまったらしい。それぞれ座り込んだりタオルで顔を拭ったり、水を飲んだりと疲れ果てている様子から、修練終わりのようだ。



「お嬢様、危のうございます!」


「ふふ、いいじゃない。のぞくだけだもの。」




エラたちから見えるのは修練終わりの面々だけだが、猛々しい男の怒声や剣のぶつかり合う音が聞こえてくることから、どうやら上官とのけいこ中のようだとベラたちは察する。その通り止めきれなかったエラに引っ張られるように開けた視界には、恐ろしい光景が広がっていた。

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