第9話

「それに、第二王子のソーマ様は好いた女性がいらっしゃいますし。」


「…なんだと?」



公爵の低い声にエラはニッコリ笑みを深める。



「お名前は明かしませんが、確かにいらっしゃいますのよ。わたくしは王子との敵わない恋で燃え上がる乙女の悋気を侮るつもりはございませんわ。そして、第三王子のエリック様は、ねぇ?」



エラの意味ありげな視線に、公爵は首を傾げる。第二王子のソーマは王太子と同じく王妃の容姿を継ぎ金髪碧眼。王太子とは違い身体が弱く、今後文官として王太子を支える役職に就くのが精いっぱいと言われている。そしてエマが言う第三王子、エリックは、唯一王に似ており、文武で言えば武に突出しており、将来は騎士団を率いるだろう。今彼は16歳。騎士団に所属し、一から騎士として精進している。



「騎士の方はお好きでしょう?華を愛でるのが。」


「っっ。」



エラの言う華とは、庭に咲き誇る美しい花のことではないだろう。騎士団は日々修練に励み、禁欲的な生活を送っている。体力旺盛な彼らは比例して精力も旺盛である。そして戦時においては戦争独特の雰囲気のせいで滾る興奮をエラの言う華で発散することも多い。それは国も認めていることであり、大規模な戦時には派遣すらするほどだ。



華とは、娼婦。男の欲求を受け入れ、それによって利益を得ている女たちのことである。



「わたくしも華についてとやかく言うわけではないのです。彼女たちが幸か不幸かどう思っているかは分かりませんが、必要であるのは確かですから。でも、エリック様は少々、ああ、これ以上は恥ずかしいですわ。」



異常なほどの娼婦好きだなんて、と恥ずかしいと言いながらもきちんとエリックの秘密を暴露するエラは、美しい笑顔のまま。父親ですら知らない情報を握る彼女の笑顔に肌寒さを感じ、公爵は身震いした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る