第5話

「あなた、好きな女性はいるの?」


「…いえ。」



スカイラーの返答に、エラは苦笑いを零す。



「そうよね。私に付きっきりですものね。休暇を増やすべきかしら?」


「必要ありません。」


「そう?」



事務的なスカイラーの返答に首を傾げるエラに、彼は深く頷く。



「警備上の観点から、私の休日をこれ以上増やすと、お嬢様に危険が及ぶ可能性があるかと。」



ただでさえ週1回の休みも必要ないのですが。と、エラが無理矢理制定した休みを、これを期に無くそうとスカイラーは企む。しかしそれを歯牙にもかけないエラは小さく頷いた。



「それならば仕方がないわ。だけど伴侶を探すこともしなければだめよ?あなたの幸せは私の幸せでもあるのだから。」


「…はい。」



スカイラーは不覚にも泣きそうになった。彼女が自分の幸せを願ってくれている。それだけで彼は満足だったからだ。



「そうおっしゃるのでしたら、お嬢様もです。」


「え?」




音もなくティーカップを置いたエラに、表情ひとつ変えないスカイラーは呟く。



「私の幸せは、お嬢様が幸せになることですので。」


「っっ。」



スカイラーの真面目な表情に、一瞬エラは顔をくしゃりと歪ませたが、震える声でこう言った。




「なら、努力をしなければ、ね。」


「はい。」



一度伏せられ、上げられたそのエメラルド色の瞳は、強い意志の力を宿していた。

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