第4話

エラが言い淀む原因はそこにある。彼女は今でも夢見ているのだ。



『素敵な方と出会って、その熱い胸に飛び込むの。私が見上げればその方は凛々しい目で見下ろしてきて。私はそっと、幸せに目を閉じるんだわ。』



「ふふふふ。」


「お嬢様、どうされました?」



妄想の中にいたエラは、ベラの抑揚のない声にハッと我に返る。



「ごほん。自分でしたためます。レターセットをここに。」


「かしこまりました。」



エラの命令に、ベラは淀みのない所作で一礼してこの場を後にする。残されたのは護衛のスカイラーとエラのみ。


「ねぇ、スカイラー。」


「は。」



スカイラーの静かな返事に、エラはバラの香りのする紅茶を一口飲み、ため息を吐いた。そのため息はまるで妖精の吐息のように甘美で、フワリと広がる彼女の色気は、ここに誰かいれば男女関係なく虜にしてしまっていただろう。自分だけで良かったとスカイラーは内心思う。スカイラーは決めているのだ。絶対にエラに恋はしない、と。



元奴隷で専属騎士になれたからといって、エラの伴侶になどなれるはずもない。もし彼女が奇跡的に答えてくれたとしても、身分差のありすぎる恋は彼女を不幸にするだけだ。



スカイラーはエラに感謝している。自分をここまで拾い上げてくれた女神だ。だからこそ彼は誓った。決して彼女を愛したりはしないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る