第2話

エラ・グランヴィル、18歳。公爵令嬢である彼女は現在、王立学園の3年生で、夏期休暇のため領地に一度戻っているところだ。季節は8月であるのに汗一つかいていないその白磁のような肌は、できもの一つ知らないほど綺麗で、ケガも知らない細い指先は爪先まで手入れが行き届いており、憂いを帯びて遠くを見つめるエメラルドグリーンの瞳はまるで見る者すべてを虜にするかのように妖しく光っている。



艶めく彼女の銀髪は風に吹かれサラサラと泳ぎ、花に囲まれお茶を嗜む彼女の様子はまるでおとぎ話の一説に出てくるほど美しい。



彼女の傍には常に、先ほど粛々と返事をした侍女のベラと、彼女の護衛騎士であるスカイラーがいる。


こげ茶の髪を乱れ一つなくきっちりと結っているベラは常に感情を顔に出さない。すべてのことに冷静に対処する胆力は20歳という若さという意外性も手伝って、由緒あるグランヴィル公爵家の侍女たちの中では一目置かれている。彼女は生まれた時からエラの侍女となることが決められていた。彼女の親は代々グランヴィルに仕えるメイヴィス家の者であり、だから彼女もまた、未来が決まっていた。


そしてエラの背後には常に、黒髪・黒目の美しい騎士がまるで影のように付き従っている。名はスカイラー。姓はない。彼は、エラが5歳の時孤児院から拾って来た。名前も、スカイラーという女性に多い名前を面白半分でつけられており、彼の孤児院で置かれていた劣悪な立場はきっと将来的に、彼の人生を暗闇へと落としていただろう。

しかし、エラはそんな彼をまるで闇から拾い上げる光のように救った。

以来この、孤児上がりの少年は青年となり、女神のような女性に人生と騎士の心を捧げたのだ。



「ご用向きはいかがなさいますか。お手紙は直接書かれますか?」


「…ええ、そう、ね。」



いつも明朗な答えを出す主人に、ベラもスカイラーも内心首を傾げた。言い淀むエラは重いため息を吐く。そのしぐさは妖艶で、彼女に”慣れた”つもりの彼らでも、心臓が大きな音を立てる。



誰もを虜にしてしまう傾国の美女。エラ・グランヴィルとは、間違いなく、この国一の美女なのだ。

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