傾国の美女

第1話

大国、サザムンド王国。


農業、商業、工業、軍事、それぞれに優れる豊かな国だ。



特に鉱石が豊富でこの国でしか取れないエメラルドはあらゆる国との交渉の切り札として使われており、質の良い、美しいこの石は周辺国との友好にも大いに貢献を果たしてきた。



そのエメラルドの産地を任されているのは、グランヴィル家。


当主マシュー・グランヴィルは清廉された高潔さを感じさせる美丈夫で、切れ者なだけでなく国王の信頼も厚い忠臣として、この国の中枢を支える大臣職を任されている。彼の妻は元侯爵家の娘であったソフィア。彼女は刺繍の腕がぴか一と有名であり、慈善事業で彼女が寄付した刺繍には寄付金の域を超える高値が付けられるほど。茶髪にこげ茶の瞳と、貴族から見れば地味であるとされる色を纏っていても彼女の整った顔はそれすらも引き立てる要素として作用していた。本人は、刺繍しか取り柄のない女だと主張するが、謙虚な姿勢と彼女の持って生まれた求心力で社交界の華と呼ばれるほど知らない者はいない女性である。


中央にいる父に代わって王都から2日を要する領地を管理するのは彼の優秀な息子、エイダン・グランヴィル。一族の証ともいわれている銀髪を短く切りそろえ、18歳と成人したばかりの年とは思えないほど緩みを見せない厳格な雰囲気は、まさに時期公爵家当主に相応しいと言われている。



そして。



「ねぇ、ベラ。ちょっとお父様に会いに行こうと思うのだけれど。」


「かしこまりました。用意致します。」



王都の一角、王宮に近い場所にあるグランヴィル家の別宅。豪奢な建物の中央に、手入れされた美しい庭園がある。そこは”彼女”をモチーフに作られた庭園であり、色とりどりの美しい花が咲き誇っている。しかし、彼女の美しさは花たちすらかすませ、庭園の中央、優雅にお茶を楽しむ彼女を見て通りかかった侍従たちはそのまぶしさに目を細めた。

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