第54話

「噂を広めるのも、僕のいないところで穂乃花をこんな風に脅すようなことをするのも、卑怯だとは思わないか?」


「っっ。だって。」



唇を尖らせる相田はまるで怒られて理不尽さを感じている3歳児のようで。正直もう怒る気も起こらないほど呆れてしまっている。


だけど、相田は行動力だけはすごくて、こいつの人気も相まってこのまま放置してたらろくなことにならないのは確信できる。実際、愛咲みたいな奴らもポツポツいて、穂乃花に直接言ってくる奴らも出てきている。



その筆頭が相田本人ってのがもう呆れる要素しかなく。



「穂乃花と付き合いたいのは分かる。だけどさ、お前が勝手に被害者ヅラして、穂乃花が一旦OKしたのに僕と付き合ってるみたいなことになってるのは?」


「っっ、それは、付き合ってるんじゃないのかって問い詰められたからっ。」


「だから嘘ついて穂乃花を貶めてもいいって?」


「っっ、別に、そんなつもりは!」


「なかったって、言い切れるか?」



僕の問いかけに、相田が視線を外す。気まずそうな感じから自分の言動が穂乃花を貶めることになると確信していたのが見て取れた。



流石にそれはない。穂乃花にフラれて納得いかないのはまだいいにしても、そのあとの行動が最悪だ。これで穂乃花がまだフリーのままだったらと考えたらゾッとする。噂が大きくなって周囲にもそれが当たり前だと思われたら、いくら穂乃花が違うと声を大にして叫んでも誰にも響かなかったかもしれない。



「噂は噂で現実じゃない。それを本当にしようなんて口説き文句、通るのは漫画の世界だけだろ。」



噂を本当にしない?なんてイケメンに言われたらドキンとしちゃいそうだけど。それは女が相手をフってなくて好意があったらの話だ。フった相手に勝手に話を広められてそれを現実にしないかなんて言われたら流石に恐怖でしかない。

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