第48話
「っっ、久住!やばいって!」
「は?」
3日後の放課後。今日は穂乃花が用事があるからさっさと帰ろうと支度していた時だった。もう帰ったはずの松木が突然教室に戻ってきて、焦った顔で僕を呼ぶ。後ろには加奈子、松木の彼女が同意するように何度も頷きながら同様に僕を見ていた。ちなみに秋田はPCの部品を買いにいくと言ってものすごい早さで帰っていて、ここにはいない。
足早に僕の近くまで来た松木は僕の腕を掴む。その力が思いの外強くてびっくりしていると、強く腕を引かれた。あまりの剣幕と痛いくらいの力の強さに思わず顔をしかめてしまう。
「なんだよいきなり。痛いんだけど。」
「それどころじゃないって!」
「だから、なんだよ!」
痛い腕を振り払ってなんとか開放してもらう。大変なんだとかやばいとかしか言わない松木の語彙力が死んでいる。それだけ切羽詰まっているんだろうが、加奈子も「そうなの。」とか、「大変なの!」しか言わないのでもはやカオスだ。
松木の語彙力はともかく、表情で切羽詰まっているのは分かる。だからとりあえず落ち着けるために松木のデコにデコピンをお見舞いした。
「いった!いった!あいてー!」
「しげくーん!」
額を抑えてうずくまる松木を、加奈子が心配そうに見ている。しげくん。しげくんですか。素敵な呼び名ですね。
「落ち着いたか?」
「…お前。あとで覚えてろよ。」
「悪役みたいなセリフありがとう。」
僕のスペシャルデコピンを食らっていてまだ睨む余裕があるのだから松木、お前はなかなかやるな。ニヤニヤしている僕を見て少し冷静になったのか、松木が再び焦ったように口を開いた。
「それどころじゃなくて大変なんだって!今飯倉さんが相田に呼び出されてついてったらしい。しかもその後ろから2、3人相田の連れが追っかけて行ったのを加奈子が見たって!」
「っっ、それを早く言えよ!」
「言おうとしたらデコピンくれたんだろ!多分図書室裏のあそこだって!」
松木の叫び声を背に聞きながら走り出し、背中越しに小さく手を挙げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます