第38話

すると相田は急に、フッ、と笑みをこぼした。それは下卑た、というか、明らかに僕を小馬鹿にしているかのような、そんな雰囲気で。サッカー部のエース、学校のヒーローなどとほざいていたクラスの女子にツッコミを入れたいほど、相田の今の様子はイメージから遠のいていた。



「自称だろ?自称。いるよなー、そういう、勘違い野郎。」


「……。」



小馬鹿にする態度はそのまま、相田は僕を完全にバカにしたように見てくる。勘違い野郎と申しましても、今朝穂乃花と一緒に初登校させていただいたばかりなんですけども。しかもお前隣のクラスの廊下くらいから目をまん丸に見開いて口開けてこっち見てたから知ってるよね?目が合った瞬間僕を拉致ったくせしてなに言ってんの?



僕の中で理想の相田像がガラガラと音をたてて崩れていく。僕は最近のこいつの所業を穂乃花から聞いて知っているわけで。だけどそれをきちんと鵜呑みにせず自分で見て聞いて確かめようとしていた、お前をちょっとだけ信じようとしていた僕によくこんなことができますね。



もはや頭の中で喋りすぎて白目になってきた僕の内情など知らない相田は、今も僕を小馬鹿にしながらペラペラと喋っている。



「知らないのか?穂乃花は俺と付き合ってんだ。学校中で有名なのにそんなことも知らないのか?いいか?穂乃花は俺の女だ。部外者の勘違い野郎は引っ込んでろよ。」


高圧的な態度。僕を心底舐めきっているいやらしい笑み。僕の中の相田像はもはや足首くらいしか残っていない。それに、言われっぱなしも腹が立つし、もうすぐ予鈴が鳴る。せっかく穂乃花と登校して幸せ気分だったのに、遅刻してペナルティーがつくのは避けたいところだ。



「それって現実の話?」


「はぁ?」



相変わらず僕に壁ドンをしたまま相田が下から上に僕を睨み上げる。これはサッカー部のエースというより、やからのエースでは?と思ったのはことを荒立てるだけだから黙っておこう。



「…穂乃花は、そんなこと言ってなかったけど。」


「あ?なに人の彼女呼び捨てしてんの?」


「それはこっちのセリフ。」



普段の相田の様子を女子から聞く限り、王子様そのものらしい。しかしこれはちょっと、王子様とは到底言えるものじゃないな。人によって態度を変える。そんな残念な男なら、僕達が薄々感じていた相田の行動が真実のものだと裏付けされていく。


「とにかく、予鈴が鳴るから行くわ。」


「はぁ?」



相手をする気にもなれずに手を振り払って歩き出せば、後ろから罵声は飛んでくるものの直接引き止めにくることはない。結局こいつはなにがしたいのか。そう思いながら教室へ急いだ。

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