第32話

「…知世くん。」


「なに?」



震え声の穂乃花になるべくやさしく聞こえるように答えれば、ゆっくりと上がった穂乃花の目には、燃えたぎるような怒りが見えて体が硬直した。


え、なに?また魔王が出たんですけど。



「知世くんが信じてくれたことは、ほんっとうに嬉しい。」


「あ、うん?」


「だけどそれ以上にね、私、相田くんに怒ってる!」


「はぁ。」



拳を握る穂乃花が怒りに燃えた目を松木に向ける。



「ひいっ。」


「私と相田くんの噂って、同じクラスの彼女さんから聞いたって言ってたよね?」


「そうです!」



また敬礼で答える気持ち悪い松木に頷くと、穂乃花は親指の爪を噛む。



「なにそれ。信じられない。マジで無理。」


「あのー、穂乃花さん?」



僕の問いかけに穂乃花がハッとしたように顔を上げ、困ったように笑って小さくため息を吐いた。



「あの、ね、ちょっとだけ気持ち悪いんだけど、聞く?」



首を傾げる可愛い穂乃花に、僕も秋田も松木も否定という選択肢をその辺に投げつけた。



ーーー、



「え、マジで気持ち悪い。」


「無理。」


「うっそー!無理だわー!」



穂乃花から真相を聞いた僕のつぶやきに頷いた秋田が吐き捨てる。元気よく叫んだ松木に同意するように、眉間にシワを寄せていても可愛い穂乃花も頷いた。



どうやら、相田が穂乃花に告ったのはマジらしい。それも1週間くらい前。当たり前だが穂乃花は僕のことが好きなのでお断りした、と。フフン。




だけど今日登校してみればどうだ。初めは穂乃花自身が当事者だからか自分と相田の噂が広がっているなんて気づかずに過ごしていたらしい。それに僕と付き合い初められたことに浮かれていて周りが見えていなかった、と。ハハン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る