第31話
「え、じゃあ相田と飯倉のビックカップルは?」
「は?」
松木の気がついたような声に、僕の胸元からものすごく低い声が。あれ?また魔王がいる。見下ろせば穂乃花が僕に抱きついたまま松木を鋭く睨んでいる。怖いのに可愛い。どうすればいいんだ。
「だって、本人が、そのぅ…。」
射殺すほどの強い視線に松木の言葉の語尾が段々と萎れていく。正直可哀想になってきた。
だけど、松木の援護射撃をするわけじゃないが僕も疑問に思っていることが多々ある。
「学校中で噂になってたんだ。僕もちょっと気になってた。」
嘘だ。実はものすごく気になってた。信じられないものを見るような目で穂乃花が僕を見上げてくるけど、苦笑いしか返せない。実際、相田と穂乃花の噂はもはや決定事項として広まっていたし、実際さっき校門での待ち合わせも見てしまっている。
「…さっき校門で待ち合わせしてたみたいだし。」
「っっ。」
少しだけ責めるような言い方になってしまったのを後悔した時にはもう遅く。穂乃花が傷ついたような顔で僕から視線を外す。
「ごめんっ。信じてはいなかったんだけど、正直、周りが現実の否定ばっかしてくんのもキツかったという、か。ごめん、な?」
俯く穂乃花の顔をなんとか見ようとしても見えなくて、焦りばかりが湧き上がる。信じてはいるって言っても実際にこんな言い方をすれば信じられていないようなもんで。正直付き合いたての彼氏に言われれば傷つくだろう。僕が逆の立場なら傷つく。
だけどどっかで、その噂を否定せず廊下を相田と笑い合いながら歩き、放課後待ち合わせしていた穂乃花の言動にも問題があるんじゃないか、そう思う自分もいる。それが責めるような言い方に出てしまったんだと思う。
「だけど信じてほしい。確かに動揺はしたけど、穂乃花のことは信じてたから。」
少ない付き合いの中でも、飯倉穂乃花という人物がそんな不誠実なことをするとはどうしても思えなかった。それが現実を見たくない自分の勝手な思い込みだとしても、穂乃花を信じていたことは確かで。うまく言えないけどやっぱりどこかで、相田と穂乃花の噂を信じていない自分がいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます