第15話

それからなんと、バウを散歩させると3日に1回くらいの頻度で彼女に会えるようになった。



『お兄ちゃん。なんでそんな率先して散歩行くようになったの?どしたん?』



生意気ざかりの妹に疑われたけど、妹よ。兄ちゃんはバウの散歩という苦行をすることによって褒美がもらえるのだ。放っておいてくれたまえ、と心の中で合掌して、今日も出かけていく。おっと、今日は家を出てすぐに近所の煩いおばさんと遭遇。



バウは安定のギャン吠え。めちゃめちゃ嫌な顔された。ごめんて。



飯倉穂乃花と会うと、そんなに内容のない会話を5分くらいしてすぐ別れる。もちろんどちらかというと飯倉穂乃花とバウのペアでじゃれあってるだけなので僕の存在なんて皆無に等しい。だけどそれでも、彼女とちょっとずつ関係が近づいているような錯覚に陥るから不思議だ。



『久住くん。』



名前を呼ばれるとなんだかくすぐったい。それになんかふわふわする。僕が【飯倉】と呼んだことはないし、【穂乃花】なんて呼べるはずもない。だけど学校で遠巻きに見ているだけよりもよっぽど近しい関係に近づけている、そんな気がした。




「お前、最近どうした?」


「なにが?」



ある日の昼休み、目を細める松木にそう言われた。どうした?と言われても僕は勿論いつも通りのつもりだ。



毎日の授業をどう乗り越えるかしか考えてなくて、その他の時間は大体ゲームとかマンガに夢中。バウがうるせえ。妹が生意気。母さんが口うるさい。テストが近いな、マジうぜー。




時々飯倉穂乃花のことを考える。ちょっと幸せだ。

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