第14話

「おりこう。お散歩中なの?そうなの。可愛いですねー。」



話しかける飯倉穂乃花にバウは尻尾をフリフリしながら近づく。一切吠えることなく、彼女が差し出した手をペロペロと舐める始末。


「くううーん。」


「ふふっ。可愛いですねー!」



(バウより君の方が30倍可愛いですねー。)


ついには腹まで見せだしたバウと飯倉穂乃花の戯れを白目で見ながら現実逃避する。なんだこいつ。いつもそこらじゅうに威嚇しまくってるくせに。可愛い子になら態度を変えるってか。マジクソ犬だな。



「バウちゃん吠えないし可愛いじゃん。ね?」


…うん。バウちゃん最高。極上の「ね?」を頂いて僕は昇天しそうです。上目遣いもポイントが高すぎる。




秋田、松木。僕先に逝くわ。



「…いつもは、ものすごく吠える、んだ。」



なんとか言葉を紡いで逝きかけている自分の魂をなんとか繋ぎ止める。


「良い匂い。ちゃんと手入れしてもらって良かったね。」



バウを抱きしめた飯倉穂乃花は、優しい声音で頭を撫でた。バウが不思議そうに首を傾げる中、くすりと笑った彼女は立ち上がる。



「もう塾の時間だから行かなくちゃ。またね、久住くん。」


「…ああ、また。」



また?そんなのあるのか?そう思いながらも手を振られたから振り返す。とにかく可愛いからいっか。

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