第5話

「お。」


本越しに飯倉穂乃花を見ていたら、なんと正面に【吠えグセを治す!】と書いてある本を見つけた。奥に見える彼女のことはすぐに忘れてそれを手に取って開く。



(へー。おやつ。おやつ。え、これもおやつ?)



その本は吠えグセのある犬だけにスポットを当てたものだったが、基本的におやつをあげてどうにかする感じだった。おやつでどうにかなるもんなのか?そう思いながらも参考にならないわけではないだろうと踏んでそれを持って受付に向かって歩き出した。



(そういや、茂の家にも犬がいたな。)


なんて思いながらカウンターの上に本を置く。とりあえず見渡してみても図書委員はいない。これ、どうすんの?そう思ってたら。



「あ、朝は図書委員いないの。私がやりましょうか?」


「え?」



鈴を転がしたような、妖精の羽音のような?ハープのような?どんな素晴らしい表現のどれもに当てはまりそうな可愛い声が聞こえて振り返れば、さっきまで近くで本を読んでいた飯倉穂乃花がこっちをみて微笑んでいた。


え、やば。可愛い。どぎまぎしながらもなんとか小さく頷いた。



「朝図書室に来る人なんてほとんどいないから。昼休み以降しか貸出できない決まりになってるんだけど、内緒。」



人差し指を自分の唇に軽く当てたそのあざとい行為は決してわざとやったわけじゃないって分かる。いや、わざとやったんだろうけど、その、わざとの意味が違うというか。



飯倉穂乃花はごく自然にそれをやって俺の心臓を破裂させようとしている。決してその辺にいるあざとさをわざと出して男を釣ろうとしてる女子とは違う。



やはり天使は違うな。なんて思いながらうやうやしく両手で本を渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る