第4話

そろそろみんな登校してくる時間とはいえ、校舎の端っこにある図書館の辺りはとにかく静かだった。廊下をキュッキュと踏みしめる自分の足音だけが響くのに、なんとなく居心地の悪さを感じて、しっかりしまっている図書室の扉をそっと開く。


意外とまったく音をたてずに開いたそれに若干驚いていると、思いの外勢いが付いたのか開ききった扉がぶつかって大きな音が響く。



「……っす。」



図書室にいたのは1人だけ。気まずくてとりあえず頭を下げてヘラリと笑って誤魔化す。顔がめちゃくちゃ熱いのは気のせいじゃないだろう。


先にいたその子はクスリと笑って、直前まで読んでいた本に視線を戻した。そこでようやく気づく。


”あの子じゃん。”



高嶺の華、尊い君。わけの分からん呼び名がつけられているその子は学校中の男が狙ってるんじゃないだろうか?



飯倉穂乃花いいくらほのか。本を読んでいるその姿も可愛くてやばい。



しばらく呆然と見ていたけど、あまりにも見すぎていたことに気付いて気を取り直す。咄嗟に出そうになっていたつばを慌てて飲み込んだ汚い自分に気持ち悪さを感じながらも、取り繕うように「えーと。」なんて言いながら動物の本を探す。



静かな図書館。校庭からどっかの部活の朝練の声だけが聞こえるここは、本の良い匂いといい感じの寒さが手伝ってすごく居心地がいい。しかも…視線を向ければ飯倉穂乃花。あー、可愛い。みんなそりゃ彼女にしたいよな。



本棚越しに見える横顔は真剣そのもので、そんな姿も可愛いと思った。



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