第24話

「まぁあれなら、蓮水さんの方がいいですよねぇ。」


「あら水無瀬みなせさん。なかなか言うわねぇ。」


「だってあの人、オーナーより店来てますよね。はっきり言って仕事の邪魔なんですよね。」


「それは確かに言えるわね。」



オーナーの旦那は3日に1日は必ずここに立ち寄って1時間ほど立ち話をして帰っていく。堂々とバックヤードに入ってきて時にはパティシエの皆さんを相手に、時にはコーヒーや紅茶の準備をしている私達の横に張り付いて。酷い時はレジをしている横でニコニコしながら立っていることも。



店のお客さんも怖いだろうにね。お会計中ずっとニコニコしてるおっさんが店員の横に立ってるんだよ?それもありがとうございましたー、もいらっしゃいませー、も言わなんだから自分だけに見えている悪霊かも?とか思っちゃうかもしれないでしょ。



「よし、できた!」


「じゃあ私が呼んでくるわね。」


「っっ、ありがとうございます!」



素知らぬ顔で、松村さんは興奮するオーナーに水を挿しに行ってくれる。嬉々として話しかけているあれを邪魔されたらきっと機嫌が悪くなるのを承知で。松村さんはやっぱり勤めて長いからそんなに八つ当たりされないけど、私達バイトにはいつ辞めても困らないと思っているのか、当たりが強いからなぁ。



案の定、話しかけられたオーナーは機嫌が悪そう。だけど、うちのケーキを全種類買ってくれたと話せば話題をありがとうとばかりに話しだした。あんなに大量注文は予約を受けろって言ってたのに現金なもの。



大興奮のオーナーと相づちすら打たない蓮水さんの間でただ立っている松村さん。早く戻っておいで!努めは果たしたから!身振り手振りでこっちを振り向かせようとするけどだめだ。完全にこっちに背を向けているから無理だった。

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