第22話

まぁそんなこんなでオーナーに悩まされている可哀想な松村さんが口を開けて固まっているのに、とりあえず目の前で手をひらひらさせてみる。すると、ギギギ、と音が聞こえそうなぎこちなさで松村さんが私を見た。



「…ねぇ、あれ。」


「そうですね、蓮水氷鷹さんです。」



小声でそう返せば、だよね、と松村さんが諦めに似た小さな声を出した。



「だから、大量注文は絶対に予約を受けろってオーナーの方針ですけど、しょうがない、ですよね?」



少しでもロスを防ぐために、オーナーに厳命されていることだけど、まさかこんな小汚いカフェに誉人が来るとは思わないじゃない。だからしょうがないということで。私の言葉に松村さんが何度も頷いたあと、深ーいため息を吐く。



「綺麗な人ねぇ。良い冥土の土産ができたわ。」


「ふはっ。松村さんまだ気が早いですよー。」



なんて言いながら、私達はケーキを包装するために取り掛かる。まだ店内は混む時間じゃないし、幸いなことに店の中にお客さんはいない。肝心の蓮水さんだが、私達のやっていることが珍しいのか、じーっとこっちを見ているけど。



「やりづらい、わね。」


「ですね。暇ならスマホでもいじってればいいのに。」



私と松村さんは無言の圧力に耐えながらも、手早く包装を済ませていった。

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