第21話

小さく頷いた蓮水さんは素直に空いている席に移動する。その後ろ姿を見ながら、この間パーティー会場で見た冷たい表情を思い出した。


ものすごく愛想が良いって感じじゃないけど、普通の人じゃん。やっぱり公式の場だったから厳格な感じでいかないといけないのかな。普段がこんな感じってこと?甘党でちょっと可愛い感じで。印象変わっちゃうなー。



パーティーの時見た感じなら、こんな人が旦那って有栖美月も大変だなーなんて思ったけど。案外お似合いなのかもしれない。



松村まつむらさん。大量注文受けちゃったんですけど、あれはしょうがないですよね?」


「…。」



このカフェの大ベテラン松村さんは、54歳になるおばちゃんだ。このお店のオーナーはすごいお金持ちで他に3店舗支店があってそれを渡り歩いてるのでここに来る暇がない。だから私が管理させてもらってるのよー。と人の良い笑顔でいつも大変だと愚痴っている。



実際、ここのオーナーはたまに巡回に来るのを見るくらいで、店の管理は松村さんがやっている。私の面接も採用も松村さんがしたから実質この店を経営しているのは松村さんだ。まぁ、オーナーなんだから口出しはできるんだろうけど。努めだして2ヶ月目くらいで初めて会ったオーナーは、いかにも高そうな服を着た、真姫の言葉を借りるならいけ好かない人だった。



『あら。あなたが新しい子?』


と言って初対面の人をあからさまに下から上まで品定めするように見る人って存在するんだと勉強させてくれた人でもある。しかも、普段お店には全く来てないくせに、松村さんをそこら辺の小間使いのように扱っていたのも嫌だった。


しかも、指摘するのもほぼ難癖に近いことばかり。



私も含めてオーナーの顔を知らない人から挨拶がなかったとか窓が汚れているとか。



とりあえず貴方の顔は知りませんでしたが私も先輩もいらっしゃいませとは言ったからね?しかも窓が汚いっていうのもこの間経費削減で前から定期的にお願いしていた掃除業者が来なくなったから私達が交代制でやってるし。私が入って以来バイト募集に誰も引っかからなくって慢性的な人手不足の中、掃除もとなると無理が出てくるのは当たり前だ。

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