誉人

第3話

この日のことは忘れたくても忘れられない。



『っっ、…ぁ、あ。』



ハクハクと動く口からは言葉にならない何かが漏れ出て、それはキツイ鉄サビの海へと沈んでいく。



”凄惨な光景”



稀ではあるけど、たまに起こる惨殺事件がニュースで取り沙汰される時、そんな文言を目にする。



だけどこれは、凄惨、なんて言葉じゃ言い表せられない。



昨日まで笑っていた口がピクリとも動かない。


昨日まで歩いていた足がまるでただの肉塊のようにその辺に落ちている。



昨日まで私に不貞腐れてゲーム機を差し出していた小さな手は、どうやったのかも分からない角度に折れ曲がっていた。



見慣れたリビングに広がる赤。いや、黒と呼んでもいいくらいそれは淀んでいて、鼻を刺激する鉄サビのような匂いは嗚咽を誘った。

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