第64話

「・・・・ゆ・・・いか!!!」



「・・・ゆいか!」




全身汗で濡れた私の身体を奏は抱きしめていた。



しかし私は寝ぼけていて夢と現実の見分けがつかない。




「奏が!!まりかを選んだんじゃない!!優しくしないで!!」




私は奏を突き飛ばし自分を抱きしめながら泣き叫んだ。




「ゆいか、落ち着け。それは夢だ。お前の妹はここにはいない。今ここにはお前と俺だけだ。」




奏はずっと落ち着いた口調で話しかけてくる。



「えっ?!今ベッドでまりかと奏が・・・結婚はまりかとするって!」




私は怯えながら震える声を絞り出した。



「俺と結婚するのはお前だろ?愛してるのもお前だけだ。ゆいか、抱きしめていいか?」



無言で見つめる私に、奏が静かに近付き私をそっと抱きしめた。




いつもの薫りに包まれてやっと現実に戻る。



「・・・っ、奏っっ!」



私が抱きしめ返すとさらに強い力で抱きしめ返してくれる。




「大丈夫だ。俺は絶対に離れていかない。」




その言葉に安心して私は声を上げて泣いた。



奏はずっと私を抱きしめ、頭をなでていてくれた。



どれだけ泣いていたんだろう。

ようやく泣き止んだ私に、奏はそっと語りかける。




「落ち着いたか?何があったか覚えてるか?」



・・・そうだった。私は蓮に会って気を失ったんだった。

だからさっきの悪夢を見たんだ。



「蓮は、帰った?」



「一応今日は帰したんだが、そのことで話があるんだ。今、聞けるか?」



「ずっと抱きしめていてくれる?」



「・・・お前、そんなこと言って、俺を煽ってんのか?



「ちっ違う!・・・ただ、触れていないと、不安なの。」



真っ赤になったあと顔色を悪くした私をみて奏は穏やかに笑いかけた。



「不安なら抱いていてやる。話してもいいか?」



「・・・うん。」



私は奏の胸によりかかり、ウエストの服をぎゅっと握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る