第61話

兄貴のところにいたから見つけられなかったのか・・・


「それからは大変だった。俺にセフレがいることを知ってパニックになった。アイツを犯したのはあのクソ女のセフレだったからな。

パニックになって死のうと車から飛び降りた。」


「大丈夫だったのか?!」


「ああ、幸いうまく転がったみたいで気絶しただけだった。

けど精神的なダメージが凄くてな。

寝る度にアイツは泣き叫んだ。」


「・・・・あいつ、泣いたのか?」


「あ?初めて泣いたのはアイツの話を聞いて全てを受け入れると言ったときだ。いきなり泣き出すから胸が苦しくなった。」


辛そうに言う兄貴を前にして俺は正直それどころじゃなかった。


あいつが泣いた?泣いたことがないと言っていた。泣けないと。俺はそれは安心できる場所がないからだと言った。

だから初めて泣くのは俺の胸の中にしたいと、あいつが安心できる場所を作ってやりたいと、そう思っていたのに。





俺はアイツを追いつめただけだった。





「それからはずっと俺の家にいる。夏休み中は昼間は会社の手伝いをしてくれてた。今は昼間は会社、夜はお前の学校の定時制に通っている。

あいつが言うから持ってきた金と会社では給料をやってその金で学費や生活費を払ってる。

服は俺がいっぱいやってるけどな。

今までの生活がひどすぎていまいちわがままを言えない。

着替えが妹のお下がりだったのをやっと好きな黒が欲しいと言えるようになったくらいだな」




まりかのお下がりだって知らなかった。しかも黒が好きだったなんて。いつもピンクを着ていたからピンクが好きなんだと思っていた自分が情けない。そして俺には言えなかったことが、兄貴には言えるのだとショックだった。

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