第60話
「俺はゆいかに惚れてる。
俺が初めてゆいかを見たのはゆいかが倉庫に来る前だ。」
ということは俺より前からゆいかを知っていた?
「繁華街を何かを諦めたような哀しい眼をして歩いていた。
しかし現実に絶望する中でも強い光があった。
守りたいと思った。女に対してこんな気持ちは初めてだった。
そんなあいつを見るのが俺の日課だった」
倉庫が初めてだって本人には言ってるんだけどな、と照れくさそうに言う兄貴の顔は今まで見たこともないほど幸せそうだった。
「そんな時、あいつの兄貴が倉庫に連れてきて、お前と付き合いだした。俺はこんな職業だし、いろいろ考えるところがあってな。俺よりはお前の方があいつを幸せにできるだろうと、俺は見ているだけで十分だった。
お前を愛おしそうに見つめるあいつを見ていて、幸せならそれでいいと思っていた。」
いつも倉庫に来ていた理由がやっと分かった。
あの兄貴が、ゆいかの幸せをただ願って見つめ続けていたなんて、信じられなかった。
でも、と呆然としている俺を兄貴は鋭く睨んだ。
「ある日からゆいかの顔から笑顔が消えた。」
俺は唇を噛んだ。
「あいつの妹が絡んでるのはすぐに分かった。あんな濁った眼をしてる奴は本職でも中々いないからな。でも、その時期は他の組と揉めてて対応に追われて倉庫に行けなかった。それに、あいつはお前の女だったから手を出す訳にはいかなかった。
でも、俺はそれを後悔してる。」
悔しそうに呟いた兄貴の後悔が滲む表情は、今まで見たこともなくて。
「組のことが粗方片付いてゆいかのところに向かって繁華街を通っていたとき俺が眼にしたのは死んだ眼をして全身痣だらけで顔を誰かに殴られ売春婦の様な格好をしたゆいかだった。」
「・・・・え?」
まさか最後の目撃情報は兄貴だったなんて。
「父親に殴られて300万円渡されて勝手に野垂れ死ねと言われたらしい。だから最期に賭をしていると。」
「・・・賭?」
「ああ、こんな自分でも抱いてくれようとする人がいればその人に金を渡してからこの世を去ろうとしていたと」
俺は息を呑んだ。
「だから俺があいつを買ってやると言ったんだ。捨てる命なら俺にくれとな。だけど、あいつは自分のことを話してそれでも気が変わらなければと言ったから話を聞くために車に乗せた。その時に鉄が通行人にでも見られてたんだろう」
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