第59話

side 蓮




ゆいかが叫びながら俺を拒絶するように突き飛ばし兄貴の胸に飛び込むのをただ呆然と見ていた。



兄貴は慈しむ様にこれまで女はおろか近しい人間にさえ見せたことのない眼でゆいかを見ると、心配そうにその胸に包み込む。



「・・・事務所で待ってろ。」



そういって気絶したゆいかを抱き上げるとエレベーターの中へ消えて行く様をボーっと見ている俺に隼人さんが口を開く。




「・・・こちらへ。」




俺は黙ってついて行くしか出来ない。


兄貴が戻ってくるまで、事務所内はただただ無音だった。



しかし合間に、兄貴の組員の何人もが隼人さんに


「若姐さんは大丈夫なんですか?」


と聞いているのをただ呆然と聞いていた。



しばらくすると、兄貴が帰ってきたが、相変わらずの無表情に、無性に腹が立って俺は兄貴に掴みかかる。




「どういうことだよ!前聞いたとき兄貴知らないって言ったよな?!」




そんな俺をただ無表情で見つめ止めに入ろうとする組員を手で制すと兄貴は口を開いた。



「で?俺が居場所を言ったらお前はどうしてたんだ?」



「真っ先に会いに行ってた。謝って、何度も謝って・・・」



「それでもまだ愛してるとでも言うつもりだったか?」



兄貴は鼻で笑う。



「くっ」



図星をつかれて言葉も出ない。



顔を歪めた俺は、


「兄貴だって、弱ってるとこにつけこんだんじゃないのかよ!」



吐き捨てる様に兄貴を罵る。



「ああ、確かにつけ込んだかな?そりゃあもう弱ってたもんな、隼人?」


「・・・ええ、もう少しで死ぬところでしたから」


「・・・・え?」



震える声を出す俺を鋭く睨んだ兄貴は、


「聞こえなかったか?俺は死ぬ寸前のところであいつを拾ったんだよ。隼人、こいつと少し話がある。ゆいかはベッドに寝かしてるから変な気起こさないように見ておけ。起きたら電話しろ。

少しでも触ったらお前地方に飛ばすからな?」



「・・・こんな時まで独占欲出さないでください。はぁ・・分かりましたよ」


そんな会話を聞いて、ゆいかは今兄貴のものなんだと、胸が痛む。


隼人さんが出て行って重苦しい沈黙が流れたが、兄貴が口を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る