再会
第58話
その日は夕食を食べた後いつもの様に私の頬にキスをして奏は下の事務所に向かった。
さて本でも読むかなとソファーに座ろうとしたら、奏の携帯が落ちているのを見つけ、大してなにも考えずに携帯を持ちエレベーターに乗り込む。
この時、奏が取りにくるのを待つべきだったのかもしれない。
でも、今まで会わないのがおかしかった。再会するのは、必然だったのかもしれない。
ポーーーン
エレベーターがついて、私は一歩踏み出す。
廊下の組員さん達はみんな事務所の方を見つめていて私に気付いていない。
私が通り過ぎると、
「わ、若姐さんっ」
皆焦ったように呼び止めてくる。
「奏が携帯忘れてったんですよ?」
なんて言いながら事務所の扉を開けて、奏の部屋の見張りさんに話しかけようと目線を戻したその時、私の体は全身が石になった様に凍り付いた。
奏が出てくるまで客人を待たせる応接セットに座っている蓮が、私同様呆然とこちらを見ていた。
「・・・・・ゆいか?」
懐かしい声で名前を呼ばれた瞬間私は我に返って踵を返しエレベーターへ走り出す。
「ゆいか!」
後ろで蓮が私の名前を叫ぶのが聞こえたけど、私はそれどころじゃない。
(奏!奏!タスケテッ!!)
心の中で奏の名前を呼びながらエレベーターまで走る。
組員達がビックリしていたけどそんなことは関係ない。今すぐ逃げなければ!
震える身体を叱咤しながら、エレベーターまで着くと、上のボタンを連打する。
ポーーン‥‥、
扉が開き、ホッとして乗り込もうとする私の体は、誰かに引き寄せられ、その身に抱きしめられる。
それは、いつもの柑橘系の匂いじゃない、嗅いだことのあるマリンの香り。
蓮に抱きしめられているのに気付くのに時間は掛からなかった。
「ゆいか、会いたかった」
沸き上がる嫌悪感、蘇る記憶。
私の身体は尋常じゃないほど震えた。
「・・・・・ゆいか?」
蓮は身体を異常なほど震わせ何も言わない私に訝しげに問いかける。
再び名前を呼ばれた瞬間私の身体は拒否反応を起こした。
「い、いやああああーーー!!!」
私が叫んだのと同時に、
「っゆいか!」
蓮を突き飛ばして駆けつけた奏の胸に飛び込んだ瞬間、私の意識は途絶えた。
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