第54話

「・・・なあゆいか・・・キス、していいか?」


熱を帯びた男の眼で奏は言った。


少し怖くて身体が震えたけど奏の顔を見つめていると心臓が高鳴るのが分かった。


私は、この人にして欲しいのだと、自然と心が理解すると、震えは落ち着いている。


言葉にするのは恥ずかしくはにかみながら頷くと、いつもの奏の柑橘系の香りに包まれた。


「ゆいか・・・愛してる」


眼を閉じた私に奏はそっとキスを落とす。


啄むようなキスをリップ音を響かせながら何度も繰り返す。


段々と息が苦しくなってきた私が口を開くと、奏の暖かい舌が入ってきた。


「んっ!」


逃げる私の舌を絡め取り吸い上げる。歯列をなぞり上顎を擦る。

どちらのものとも分からない唾液が口元を流れた。


「んんっ!んあっ!あふぁ・・・」


自分の声とは思えない嬌声が漏れる。


「・・・ゆいか・・・たまんねぇ。。。」


私たちは夢中でお互いを貪りあっていた。まるでお互いを食べ合うように。


もうどれだけそうしていただろう。奏が名残惜しそうに銀の糸を紡いで離れたとき、私は全身に力が入らなくなっていた。


「思った通り、お前は極上だな。これ以上はもう少し待ってやるがその時になれば覚悟しろよ?」


私は来るべき未来に背筋が寒くなったと同時に未来の自分に同情した。

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