第56話
皇后とは、帝を諫める立場でもいなければならない。完璧に振る舞い、時に帝を手助けする者。それがこの国の皇后である。
カラミアン皇国の帝は、いくつもの王国を統べる者。唯一無二の存在をサポートするのなら、妻である皇后は完璧でなければならない。
城の教師たちはヴァネッサに完璧を求めた。自国の皇太子よりも完璧であれと。それを、ヴァネッサは疑いもなく信じ、これまでやってきたのだ。
そんな彼女を否定したのは、彼女の一番の理解者であり、傍にいるはずの皇太子。それも、彼が心を奪われたのはヴァネッサの対局にある女性だ。自分を否定された。ヴァネッサがそう思うのは自然だ。
それも、まるで全てヴァネッサが悪いかのように、状況全てをヴァネッサの悪いように取る皇太子と取り巻きたち。対してキャロラインの行動は全て肯定され、守られるのも彼女。
人としての感情があれば、ヴァネッサが追い詰められるのは間違いなく。そして彼女の取り巻きの手助けと、決してまっすぐに育ったわけではないヴァネッサの性格が災いして、イジメへと発展するのは致し方のないことなのかもしれない。
全てを否定され、彼女ばかりが肯定される。キャロラインは大切にされるのに、自分は放置され、挙げ句にヴァネッサの行動はすべて否定されるのだ。
完璧な人間でいようとするのに、なぜそれを否定されるのか?考えても分からない。教えてくれる人もいない。教師や帝、皇后はそれでいいという。それなのになぜ、皇太子は自分を否定するのだろう?
それに答えをくれる者はいない。彼女は生まれながらに家族がいない。生まれながらに親しい侍従がいない。ようやく手に入れた、1ヶ月以上いてくれるトミーたちも、従者であるがゆえに、その一線を超えて彼女を抱きしめてくれる存在にはなってくれないのだ。
「もう一度聞きます。自分の婚約者に、適切でない距離で接しないでください。そう言うことのどこが間違っていますか?」
ヴァネッサが体を震わせる。彼女はそれすらも言えていないのだ。だって、これは教師たちの言う、必要な諫言ではないのだから。
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