第55話

ヴァネッサにつく側仕えは最低限。それも1ヶ月ごとに人が交代し、ヴァネッサの気持ちではなく侍女や侍従たちの気持ちに最大限に配慮した形で彼女は育っていく。



1ヶ月で交代し、その期間もまるで刑務所にいる罪人のように耐え忍ぶ彼らを見て、幼いヴァネッサはなにを思ったのだろう?




彼女の属性は、彼女が学園に入学して検査されるまで判明していなかった。だけどヴァネッサは自分の属性が闇だと確信していた。それは、彼女の起源ともいわれるあの忌まわしい事件から、使用人たちが彼女の属性は闇に違いないと囁いていたからだろう。



忌むべき者は闇。怖いものは闇から生まれる。黒は不吉の色で、それを持った者は蔑んでも構わない。だって怖いんだからしょうがない。そんなバカみたいな考えを持つ者たちを公爵家は慮り、こんなに恐ろしい娘の世話をさせてすまないと、彼女の家族は使用人たちに慈悲を持って接した。



それも、自分たちはただの一度も会いに行くこともなく、だ。




そんな彼らのありがたいお言葉を、親切な・・・使用人たちはヴァネッサに囁き続けた。そうしてヴァネッサは自分を認めてもらい、認識してほしいと必死に努力し、今の彼女になったのだ。



それなのに、皇太子は完璧な淑女である彼女を賢しらに知識をひけらかし、笑いもしない冷酷な女だと嘆く。彼の側近たちはキャロラインのように天真爛漫とは程遠い悪女だと罵り、皇太子はそれを止めようともしなかった。




自分を見てほしい。愛してほしい。ヴァネッサが強く望むほど彼女は完璧であろうとする。それは、完璧な人間でないと皇后にはなれないという、城の教師たちの言葉が根底にあったからだ。



彼女は愛を知らない。トミーたちのような従者としての愛情ではなく、親が子に与える暖かな愛を知らない。人が人を愛する愛を知らない。だからこそ彼女は、城が用意した完璧・・な教師の歪な愛を信じた。

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