第54話

「私は今の光景の方が信じられませんが。この学園は身分など関係ないと謳ってはいますが、それは身分関係なく公平に交流を深めようという意味であると私は解釈しておりますわ。決して、年頃の男女が必要以上に近づいたり、婚約者を蔑ろにしてまで格下の者を守れという意味ではないかと。それに、あなた方。」



視線を向けた先は、皇太子の取り巻きたち。未だにどうでも良さそうなグレゴリー。面白くないと言わんばかりに不愉快そうな顔を隠すこともないカチュア、そして、むぐむぐ言っているラビット。ここにはラミトがいないけれど、彼はまだここまで傲慢な行動はしないから大丈夫だろう。



問題があっても諫めることもない怠惰なグレゴリー。ひたすら嫌味を浴びせ、軽蔑の視線を隠そうともしないカチュア。攻撃的なラビット。彼らの根本にキャロラインを守るという使命感があったとしても、あんまりだと思う。それは、皇太子の側近だからなおさら。そして、それを止めようともしない、皇太子も…同罪だ。




「ここは学園です。だけどあなた達はそれぞれ家名を背負って社交をしている立派な貴族の男性ですよね?それなのに、主と仰ぐお方の婚約者への自分の態度が正解であるのかどうか、分からない、と?」



私の言葉に、全員が目を見開いた。マジかよ。なにその初めて言われました感。全員の視線はヴァネッサに。彼女はただ前を向いて淑女の笑みを作っているけれど、その目に何の色も宿していないことは、ヴァネッサのストーカーである私には分かる。




ヴァネッサの生い立ちは、ゲームではあまり深く描かれてはいない。ヴァネッサは公爵家の長女であり、上にお兄さんがいる。だけどそれは公表された家族構成であり、彼女には実は双子の弟がいた。



生まれてくる時彼女の強すぎる魔力に、双子の弟は強い影響を受けた。この世に誕生した時には一緒に腹の中にいたヴァネッサの魔力の影響で瀕死の状態であり、すぐに息を引き取ってしまう。しかも、驚くべきことに、彼が死んだ瞬間、ヴァネッサが火が点いたように泣き出し、弟の死体は魔力の残滓と化して泣くヴァネッサに吸収されてしまったという。




その状況を出産したてで目撃してしまったヴァネッサの母親と侍女たちはヴァネッサを恐れた。彼女の強すぎる魔力はやがて、自分たちも食らうのではないか、と。



その時5歳だった長男、そしてローズ家当主である父親にも生まれて間もないヴァネッサのことは伝えられ、彼女は生まれた瞬間から隔離されて生きていくことが決定付けられてしまう。

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