第49話

「ヴァネッサ様!」




着いた時にはもう遅く。そりゃそうだよね。叩いてから駆けつけたんだから。だけど、今日はちょっと取り巻き様たちと大事な話があるから遠慮してくださる?と真剣な表情で懇願された私は、流石に無理やりついていくなんて無理だった。だから彼女が中庭でお茶をしているのを確認してあの教室で見張ってたんだけど。あとでテディーが追っかけてきてちょっとほわっとした雰囲気の中でも見張れてはいた。



私の声を聞いたヴァネッサは、バツが悪そうな顔をして目を逸らす。彼女も気づいているんだろう。だけどこれはしょうがないとも思っている。だって、ゲームの中のヴァネッサがそうだったから。



強制力のせいなのか、ゲームの設定の通りの性格だからなのか、ヴァネッサはやってしまった。



この中庭のこの風景を覚えている。



お茶会をしている傍ら、ヴァネッサに皇太子との仲は誤解だと言いに来たヒロインの発言が逆に彼女の逆鱗に触れ、この間ひっぱたかれたにも関わらず、再びヒロインが叩かれてしまう。今こうして、彼女は地面に座り込み、痛そうに頬を抑えていて、伏せられたその顔の端に、一筋の涙が流れ落ちる。


1回目のビンタは阻止できた。でも今回は無理だった。


そして、ここで。



「キャロ!」


「出たぁ。」



もはや白目よ。ついに愛称呼びにまで仲が発展している皇太子たちの登場です。彼らはヴァネッサのことなんか目にも入らないとばかりに一目散にキャロラインに駆け寄り、心配そうに彼女の顔を覗き込むと、泣いているのを発見する。



そして。


「っっ、いくらなんでも叩くなんて。なんて乱暴な!」



軽蔑の光を宿したその目で、ヴァネッサを睨むのだ。


それに怯むヴァネッサは、彼らから視線を逸らして取り巻きの令嬢たちを連れて走り去ってしまう…。



「待ってください。」


「っっ、貴女!」



そんなこと、私がさせるわけないけどね。ヴァネッサのほっそーい白魚のような手をやんわりと掴んで、ヒロインに寄り添う皇太子を見下ろした。

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