第45話

しかも彼女は全属性持ちであったと、今さっき報告を受けたばかり。その報告をした息子の悔しそうな顔を見て、こいつの将来は平凡なものになるかもしれない、と、失望したばかりだ。



しかも最近、Sクラスに入ったという平民上がりの男爵令嬢と学園で懇意にしていると聞いていた。いずれ気づいてくれればと放置していたが。やはりそれは間違いだったらしい。今更ながら、仕事を優先して息子を放置していたことを後悔してしまう。



何も言い返さない俺の心情は、恐らく目の前の男性に伝わってしまっているだろう。ここは謝罪するべきなのか、それともただ頷くだけに留まるべきなのか。我が家の婚約のことで公爵家がしゃしゃり出てきているという事実などもはや頭にない俺は、ただ目の前の彼にどう弁解しようかだけを考えていた。




「どうだろう?そちらの言い分はすべて叶えよう。我が息子を哀れと思って、ご子息の婚約者を譲ってはくれないだろうか?新しい婚約者はぜひ我が家が全面的に協力して探そう。ご子息より少しだけ能力の足らない、彼の自尊心を決して損なわない、健気な子を。」



息子のことを言われているのに、怒りは湧いてこない。正直本当のことだと思ったからだ。うちの息子は騎士を目指しているというのに、心の狭い、自分本意な人間となってしまった。無意識に努力するのを避け、そのせいで上がらない能力を嘆き、自分より優れる人間に嫉妬する。それも、思うだけならば良いが態度に表し、時折所作に表れ、アシュリー嬢を困らせることも多いと聞く。



どうしようもない子ではないが、アシュリー嬢を妻に持ち、皇太子殿下の側近になるほどの人間ではない。そのことを突きつけられたとして、否定するような曇った目はしていないことに安堵した。



自分はまだ、この国の騎士団長として、やっていける。哀れな息子を置き去りにしてこの時の俺は、頷くしかできなかった。

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