第41話

「ケイス様がこの件でご了承くだされば、カラトラバ家とは穏便に婚約解消できるよう、当家が責任を持って交渉いたしましょう。それに、うちの坊ちゃまとご縁を繋いでくださるということになれば、色々と・・・、ケイス様にとってもよいことが起きるかと。特に、ローズ侯爵家とは深い交友を結ぶ良ききっかけとなるでしょう。」


「よろしくお願いします。」




私はアホなのだ。深く考えずに突き進んでしまうきらいがある。


思わずついて出たその言葉は、とても重く、もう引き返せないというのに。



自然とラビットと縁を切れて、ヴァネッサ様を幸せにできるお手伝いができる絶好のポジションを用意すると言われて、目をまん丸に見開いているお父様を置き去りにして返事をしてしまった。



執事は笑みを深める。



「ありがとうございます。これからのことは我がマーシャル家にお任せください。これからも末永く、よろしくお願いいたします。」



素早く一礼をした執事が退出する。呆然としていた私は、まだ目をまん丸に見開いて口を開けたままのお父様に言った。



「思わず言っちゃった!どうしようお父様!」




その後、あのことは夢だったのではないかと思うほど穏やかに日々は過ぎ…ていくわけもなく。あの執事が帰った翌日にはカラトラバ家の当主からお父様への面会申し込みが入った。



勿論あちらが爵位が上なので当たり前にうちがお宅訪問であるはずなのだけど、なぜかカラトラバ家当主が息子を伴って我が家を訪れた。



「此度は残念ではありますが、ご縁がなかったということでしょう。お互い、新しい婚約者もおりますし、お互い感情が芽生える前で良かった。今後も事業の提携は継続という形で問題ありませんな。」




カラトラバ家当主はこの国の騎士団長でもある。いつもは重々しい騎士服を着ているけれど、今回は家の用事ということもあって、貴族服に身を包んでいた。勿論、その格好もややぱっつんというか。筋肉がこんもり過ぎて貴族服を着こなすのは困難らしい。

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