第40話

「…ああ、そのことでしたらお構いなく。」



執事の声に、伏せていた顔を上げる。変わらずの表情は笑顔のまま。そこから読み取れる情報など皆無だ。



「えっと。」



思わず隣のお父様を見上げれば、同じくキョトンとしていて首を傾げるという、中年にしては気持ち悪いリアクションを目撃させられてしまう。やはり、お父様もよく分かっていない。私もよ。だって私は今なんて言った?ラビットと婚約してるから無理だと言った。



考えてみれば、婚約者のいる女性に婚約を申し込んでいる時点で、公爵家がよくないことをしているのは明白。爵位が上である以上、流石に無下にもできないこの爆弾投下に、ラビットの家は堂々と抗議を申し入れることは可能だろう。



それこそどこで誘惑したのだと当家がラビットの家に訴えられることもあり得る。


そうなれば、吹けば飛ぶうちなんてすぐにクシャッと潰されて、最悪一家離散だ。付き合いだけは長い我が領の領民たちも被害を被り、私の人生もそこで終わるだろう。



ゲームとは関係ない所で私の人生が終わるなんて、冗談ではない。



まぁ、いつもいちゃもんつけてくる思い込みおばけアシュリーがいなくなれば、ヴァネッサ様幸福計画が一歩前進しないでもない気がするが。私(アシュリー)のいない所でゲームが進行してしまえば、私はヴァネッサを救うことができなくなってしまう。



それだけは避けたい。私はヴァネッサを幸せにして、自分も幸せになりたいのだ。



この欲張りな計画を今まさに潰そうとしているくせに、目の前のニヤケ執事はお構いなくという。あれ?お構いなくってこういうときに使うセリフだっけ?と、少々意識を飛ばしかけたのを必死で引き戻した。

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