第38話

「アシュリー。何から話せばいいか父様もよく分からないんだ。」



学園から帰れば、皇都にあるケイス家のペントハウスで、2つの手紙を卓上に並べたお父様が間抜けに口を開けたままでこちらを見ていた。



ちなみに我が家のペントハウスは貴族街の一番端。平民街との隔たりにある門の真横にある。ちなみにうちよりも内側にはうちより裕福な男爵家のペントハウスがあり、残念なことに爵位は上ながらも予算の関係でうちの方が"外側"にあるのだ。



そんな一番粗末なものでも、裕福な平民ですら無理なほどの金額でしか買えず、内装も前世の庶民の感覚だったらビビるくらいのきらびやかさがある。



これがもっと中心になればどうだろうか。ちなみにキャロラインの家のラングレー男爵家は、うちのペントハウスから馬車で30分ほど内側にある。大商家のラミトは更に内側だし、グレゴリーやラビットでさえもっと内側。カチュアはほぼ中心に家があるし、ミカエル皇太子は勿論城。そしてテディーはカチュアと同列。いや、皇太子を除けば一番凄いところに住んでいるだろう。



「まず、全属性おめでとう。」


「…反応が薄いですが。ありがとうございますお父様。」


「そういうお前もそんなに嬉しそうじゃないだろう。」


「嬉しいですわ。ただ、高貴な人の冗談の衝撃からまだ抜け出せないだけです。」


「うぐっ。」




結局何を考えてもテディーのことを考えてしまう。私は存外、イケメンに弱かったらしい。それ以上にヴァネッサ様に弱いけど。


私の何気ない発言に、お父様が何かを飲み込む。そしてやや俯いたその視線の先には、卓上の…手紙?



「実は、その高貴な方からお前に、婚約の申し込みが来ている。」


「はぁ?」



これも冗談であってほしい。そんな表情が見て取れるお父様と、呆然と目を合わせた。

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